画像処理システムに最適なカメラの選定方法
スムーズなカメラ選定のポイントとは
画像処理システムの開発において、大きな課題となるカメラの選定。仕様や機能、用途を比較しながら、膨大なラインナップの中から最適なカメラモデルを見つける作業は、決して簡単ではありません。
実際の撮影用途に合ったカメラを見つけるには、さまざまな要件を整理する必要があります。
この記事では、一つひとつの要件を解説しながら、スムーズな選定をお手伝いします。
カメラを選定するうえで、まず重要となるのが以下の2点です。´
撮影対象
撮影に必要な性能
上記2点を確認することで、以下のいずれのカメラが適しているかがわかります。
要件1:ネットワークカメラ vs 産業用カメラ
画像処理システムで使用するカメラには、産業用カメラ(マシンビジョン)とネットワークカメラ(IPカメラ)の2種類があります。
主に監視映像を撮影するネットワークカメラは、産業用カメラと組み合わせて使用されることも多く、以下のような特長があります。
過酷な環境に耐えられる丈夫な筐体を有し、屋内外での使用に最適
日中・夜間モード、赤外線フィルターなどを搭載し、暗い場所や悪天候でも優れた画質を実現
データを圧縮することで、カメラ内部に画像を保存可能。また、ネットワークに接続されているため、複数ユーザーでカメラにアクセス可能
一方、産業用カメラには、以下のような特長があります。
非圧縮のデータ(生データ)を直接コンピューターに転送した後、コンピューター側で大量のデータ処理を行うため、画像情報が失われない
用途に応じてエリアスキャンカメラまたはラインスキャンカメラを選択可能
参考:エリアスキャンカメラとラインスキャンカメラの比較
エリアスキャンカメラ
露光方法:長方形のセンサー面に配置された画素を一度に露光(一括露光)→ 画像の取得・処理が同時に完了
用途:工業、医療・ライフサイエンス、交通・輸送、セキュリティ・監視など→ ネットワークカメラの補助カメラとして使用可能
ラインスキャンカメラ
露光方法:1~3列に配置された画素を1列ずつ露光(順次露光)→ 処理工程において1枚の画像に合成。また、用途や要件により、エリアスキャンカメラとの使い分けが可能
用途:印刷、選別・包装、飲料・食料品の検査、その他表面検査→ ベルトコンベヤー上を高速で流れる物体の撮影が可能
ネットワークカメラ
用途:配送・梱包、防犯、交通監視など
設置場所:銀行、カジノ、事務所、公共施設、港湾や貨物ターミナルの物流センター
要件2:モノクロカメラ vs カラーカメラ
モノクロカメラとカラーカメラのいずれを選ぶかは、撮影後の画像解析において、色情報が必要かどうかによって判断します。色情報が必要ない場合は、画素数と感度が高いモノクロカメラがおすすめです。なお、高度道路交通システムなどの用途では、それぞれの国や地域が定める画質の証拠画像を撮影するため、モノクロカメラとカラーカメラを組み合わせて使用することもあります。
要件3:センサーの種類、シャッター方式、フレームレート
センサーの種類(CMOS vs CCD)、シャッター方式(グローバルシャッター vs ローリングシャッター)、フレームレート(1秒間に撮影可能なフレーム数)は、いずれも十分な検討が求められる要件です。
参考:CCDセンサーとCMOSセンサーの違い
CCDセンサーとCMOSセンサーの基本的な違いは、その技術的な構造にあります。
CMOSセンサーのセンサー面には、光(光子)を電気信号(電子)に変換するコンバーターが搭載されており、速度・柔軟性ともに優れているため、一眼レフなどの民生用カメラにも多く使用されています。
一方、コンバーターがなく、より多くの画素を配置できるCCDセンサーは、集光効率が高いため、天体観測など暗所での撮影に適しています。また、構造やデータの転送・処理方法の関係上、速度に限界はあるものの、優れた画質を有していることもその大きな特長です。
長年にわたる技術革新により、幅広い画像処理に対応できるようになっているCMOSセンサー。その主な特長は、以下の通りです。
優れたコストパフォーマンス
高フレームレート
高画素
省電力
高量子効率
最新のCMOSセンサーは、画質に影響することなくフレームレートを向上させるなど、従来までCCDセンサーが使用されていた分野にも進出しています。
シャッター方式
撮影用途に応じてシャッター方式を決定することも、カメラの選定において非常に重要です。シャッターが開くことで、カメラ内部のセンサーに光が入るため、露光時間(シャッターが開いている時間)を変更することで、センサーの受光量を調整できます。シャッター方式には、グローバルシャッターとローリングシャッターの2種類があり、それぞれ露光方法が異なります。
参考:グローバルシャッターとローリングシャッターの仕組み
グローバルシャッターは、センサー面を一度に露光させるため、交通・輸送、物流、印刷物の検査など高速で動いている物体を撮影する用途に適しています。
これに対し、ローリングシャッターは、画素を1列ずつ露光させるため、対象物が動いていると、ローリングシャッター現象と呼ばれる歪みが生じるおそれがあります。ただし、露光時間を適切に設定したうえで、外部フラッシュを併用すれば防止できるため、動体撮影を行う場合でも、ローリングシャッターを採用することは可能です。
2種類のシャッター方式の詳細については、ホワイトペーパーをご覧ください。
ホワイトペーパーを読むフレームレート
ラインスキャンカメラの場合、「フレームレート」の代わりに「ラインレート」または「ライン周波数」という用語を使用することもあります。
フレームレートとは、1秒当たりに撮影可能なフレーム数を示したもので、その値が大きいほど、撮影速度が向上します。ただし、フレームレートが高いと、1秒当たりの撮影枚数が増えるため、データ量も増大します。
エリアスキャンカメラの場合、インターフェースの種類やフレームレートによって、処理可能なデータ量が大きく異なります。特にフレームレートについては、10fps(低速)から340fps(高速)まで幅広く存在するため、実際の撮影対象を考慮したうえで、お使いの画像処理システムに合った数値を選択することが重要です。
要件4:画素数、センサー、ピクセルサイズ
画素数
カメラの製品仕様には画素数が記載されています。例えば、「2048×1088」の場合、横方向に2048個、縦方向に1088個の画素(ピクセル)が配置されており、これらを掛け合わせた値の2,228,224ピクセル、つまり約2.2MP(1MP=100万ピクセル)による撮影が可能という意味になります。撮影に必要な画素数を決定する際には、「画素数=対象物のサイズ÷判別部位のサイズ」の計算式を使用します。
参考:撮影に必要な画素数の決定方法
例えば、指定地点に立っている身長約2mの人間を撮影し、その目の色を判別したい場合、計算式は以下のようになります。
画素数=身長÷目の判別部位のサイズ=2,000mm÷1mm=2,000ピクセル×2乗=4MP
>→ 1mm単位の解像度で撮影を行うには、4MPの画素数が必要
センサーとピクセルサイズに関する注意点
1.
センサーは、光を信号に変換することで、画像データの生成・処理を行いますが、その際センサー面に配置された画素のサイズ(ピクセルサイズ)が大きいと、より多くの光を取り込むことができます。特にピクセルサイズが3.5µm以上の場合、受光面積が広いため、信号対ノイズ比(SN比)が向上します。画質の指標でもあるSN比は、一般に42dB程度あれば、安定した撮影が可能であると考えられています。
2.
センサーが大きいほど、より多くの画素を配置できるため、画素数が高くなります。また、小型センサーよりピクセルサイズが大きく、SN比に優れているという点も、大型センサーのメリットです。
3.
ピクセルサイズ・画素数ともに十分な大型センサーを使用したとしても、適切なレンズを組み合わせていなければ意味がありません。センサーの性能を最大限に引き出すには、センサーの画素数に合ったレンズを選定することが重要です。
4.
面積の広い大型センサーは、使用されているシリコンの量が多いため、結果としてコストがかさみます。
インターフェース
インターフェース
インターフェースには、カメラとコンピューターの接続し、撮影データを画像処理ソフトウェアに転送する役割があります。お使いの用途に最適なインターフェースを見つけるには、さまざまな要素を検討しながら、性能・コスト・信頼性のバランスを取らなければなりません。
参考:インターフェースの種類
現在広く普及しているインターフェースには、GigE Vision、USB3 Vision、Camera Linkなどがあり、対応するカメラやアクセサリーも豊富にラインナップされています。また、これらのインターフェースは、転送速度、カメラの接続台数、ケーブル長などに違いがあります。
なお、旧世代のインターフェースであるFireWire、USB 2.0については、性能に限界があるため、現在の画像処理システムでの使用はおすすめできません。
筐体サイズ
カメラの筐体サイズは、インターフェースの選定だけでなく、システム構築にもかかわる重要な要素です。特に複数のカメラで大きな対象物を撮影する場合、わずか1mmのサイズの違いが大きな影響を及ぼします。
Baslerでは、29mm×29mmのコンパクトなカメラ(Basler aceなど)から大型のラインスキャンカメラ(Basler sprintなど)に至るまで、幅広い製品を取り揃えています。
要件6:カメラ機能
Baslerカメラには、画像補正、画像解析、撮影制御などをサポートする機能が多数搭載されています。各モデルの機能の詳細については、機能チェックリストをご覧ください。
画像処理システムに求められるカメラ機能には、主に以下の3つがあります。
ROI(関心領域)
画像の処理範囲を指定する機能です。複数の領域を同時に設定することも可能で、解析対象を絞り込むことで、データの読み出し速度が向上します。
自動補正
Baslerカメラには、自動補正機能が多数搭載されています。例えば、自動露光補正と自動ゲイン制御を使用し、周囲の環境変化に応じて露光時間とゲイン値を調整すれば、画像の明るさを常に一定に保つことができます。
シーケンサー
指定した順番で自動的に画像を読み出す機能です。複数のROIを設定することも可能です。
最新のCMOSカメラを比較するための最適な方法とは?
ほぼすべてのセンサーモデルについて、それが使用されている異なるメーカーのカメラが相当数存在する。センサーだけが同じであれば、これらのカメラは同等なのでしょうか?ユーザー、開発者、プロジェクトチームが適切なカメラを選択するためには、どの点が重要なのでしょうか?この決定は用途や要件によって異なります。
重要性の高いEMVAデータ
用途に合ったカメラを選ぶ際に考慮すべき性能については、すでに研究が進んでおり、欧州マシンビジョン協会(EMVA)においてもEMVA 1288と呼ばれる規格が制定されています。この規格では、産業用カメラと産業用カメラに使用されるセンサーの画質や感度にかかわる性能の測定方法について定めています。
カメラ選びの際には、EMVAデータを比較することが重要になります。カメラの性能やカメラが実際の用途に合うかどうかは、EMVAデータを確認しないとわかりません。
しかし、EMVAデータからセンサーの設計上の問題が必ずしもわかるとは限りません。その一例が撮影画像に線が映り込む不具合です。このような不具合は、人間の目で見てすぐにわかりますが、EMVAデータには反映されません。そして、もう一つの例として挙げられるのがドット抜けやピクセルの点滅など、ランダムに発生する不具合です。
これらの不具合を確認するには、サンプルカメラを使用して総合的な試験を行うと良いでしょう。試験の際には、カメラをできるだけ実際の用途や作業に近い環境に設置し、細かく検査することが重要になります。画質の問題に対してすべてのアルゴリズムが同様の感度で反応するとは限りません。いずれにしても、大手メーカーがよく提供している信頼性の高い画質基準を参考にすれば、試験にかかる時間や自身の用途に合わせた最適化といううんざりするような作業を削減できます。
その他のポイント:ファームウェア機能とデータ転送の安定性
ファームウェアとソフトウェアも、同型センサーを持つカメラに大きな違いを生む要因となります。ここでは、GenICam規格などのカメラ規格やインターフェース規格であるGigE Vision規格、USB3 Vision規格に準拠しているかどうかが重要になります。これらの規格は、通信チャンネルやカメラインターフェースについて定めており、システム構築にかかる労力の削減やデータ転送の質の向上が期待できます。
ファームウェアと関連するソフトウェアの性能によっても、大きな違いが出る場合があります。まず、カメラのセットアップにかかる労力が異なります。すべてのカメラメーカーがカメラ制御専用のソフトウェアやドライバー、さらには各種OSとプログラミング言語に対応したきちんとしたプログラミング環境を提供できるわけではありません。しかし、重要なデザイン・インを行う場合は、これらが必要不可欠になります。
もう一つの要因として、データ転送の安定性によっても、カメラの性能は変わります。特に帯域幅やフレームレートが大きい場合は、フレームバッファ機能を持つカメラファームウェアを搭載することで、データの安定性を大幅に向上させることができます。
一般的な機能や独自の機能を使用すれば、多くの場合でビジョンシステムの性能を向上させることが可能です。なかには、同型センサーを搭載していたとしても大幅に良好な結果を生み出す機能もあります。
Baslerオンラインツール
Baslerでは、ビジョンシステムの構築をサポートするさまざまな便利ツールを公開しています。お使いのカメラに対応したアクセサリーの選定からシステム全体の構築に至るまで、用途に応じてぜひご活用ください。