マシンビジョンにおけるGMSLの導入
設定・運用と互換性確保
優れた速度と信頼性を兼ね備え、大容量の画像・映像データの長距離転送を実現するGMSL™(ギガビットマルチメディアシリアルリンク)。MIPI CSI-2の信号をトンネリングし、伝送距離を大幅に延伸することが可能なこのインターフェースは、多くのSoC(System on Chip)/SoM(System on Module)と自由に組み合わせられるほか、複数のカメラとAI(人工知能)から構成されるエンベッドビジョンシステムの構築にも最適です。
最終更新日: 2026/03/20
読了時間:約 21 分
GMSLについて知っておくべきこと
大容量の画像・映像データの長距離転送に最適
アナログ・デバイセズ社独自のインターフェースとして、最大帯域幅3Gbps/6Gbps/12Gbpsに対応
シリアライザーとデシリアライザーを採用し、最大15mの同軸ケーブルによるデータ転送が可能
マシンビジョン規格なし:センサーの種類ごとにカメラを個別に接続・設定する必要があるため、システムの構築・変更が困難
ホストシステム:産業用コンピューター(IPC)やカスタムキャリボードにSoC/SoMを組み込むため、低層プロトコルやハードウェアに関する専門知識が必要
Basler GMSLビジョンソリューション:オンボード処理とGenICam、GenTLに対応したカメラに加え、プラグアンドプレイ接続を可能にするカメライネーブルメントパッケージを提供
主な用途:モバイルロボット、物流、無人搬送車(AGV)、AI画像解析によるファクトリーオートメーション
GMSLの概要
GMSLは、画像・映像データの長距離転送を目的として、アナログ・デバイセズ社が独自に開発した車載用高速シリアルインターフェースです。
GMSLの世代
現在のところ、GMSLには以下の3つの世代があり、世代を追うごとに帯域幅が倍増しています。
GMSL1:最大帯域幅3Gbps
GMSL2:最大帯域幅6Gbps
GMSL3:最大帯域幅12Gbps
GMSLによるMIPI CSI-2の信号伝送距離の延伸
GMSLの最大の特長は、シリアライザーとデシリアライザーを活用し、MIPI CSI-2の信号伝送距離を本来の30cmから15mへ大幅に延伸できることにあります。
シリアライザーとデシリアライザー(SerDes)による信号変換
各世代のGMSLには、シリアライザーとデシリアライザーが使用されており、カメラ側のシリアライザーでMIPI CSI-2の画像データをシリアル信号に変換し、ケーブルを介して伝送した後、ホスト側(産業コンピューター、キャリアボードなど)のデシリアライザーでシリアル信号を元データに戻す仕組みになっています。なお、シリアライザーとデシリアライザーをカメラとホストシステムに実装する際には、個別の設定が必要です。

同軸ケーブルによる最大15mのデータ転送
GMSLによるデータ転送では、FAKRAコネクター付き同軸ケーブルのほか、HSDコネクター付きシールドツイストペア(STP)ケーブルを使用することも可能です。そのうち、最大ケーブル長15mの同軸ケーブルは、データ転送・信号制御だけでなく、Power over Coax(PoC)による電源供給にも対応しているため、ケーブル1本でカメラを運用できます。一方、シールドツイストペアケーブルは、最大ケーブル長が約10mしかありませんが、柔軟性の面で同軸ケーブルよりやや優れています。
GMSLは、I²C通信やトリガー信号の送信にも対応しています。ただし、USBやGigEと違ってポイントツーポイント接続を行うため、ハブやスイッチによるカメラの追加ができません。そのため、GMSL対応のマルチカメラシステムを構築する場合は、ハードウェアを事前にカスタマイズする必要があります。
標準インターフェースとGMSLの比較
独自インターフェースであるGMSLには、USB3 Vision、GigE Visionのようなマシンビジョン規格がないため、システム互換性、初期設定やドライバー、SDKなどのソフトウェア更新の面で、さまざまな技術的課題が存在しています。
例えば、GNSLには汎用カメラドライバーがありません。しかも、多くのGMSLカメラはオンボード処理に対応しておらず、ISP(画像信号プロセッサー)も搭載していないため、ホストシステムのみでセンサー制御や画像の読み出しを行う必要があります。
互換性と設定に関する注意点
GMSLカメラとホストシステムを接続するには、カメラ側のシリアライザーとホスト側のデシリアライザーの互換性を確保したうえで、正しく設定しなければなりません。また、ホストシステムを選定する際には、センサーの検出・制御とデータ受信が可能なものを選ぶ必要があります。さらに、GMSLには汎用カメラドライバーがないため、同一メーカーのカメラであっても、センサーが異なる場合は個別の設定が欠かせません。これらの制約は、GMSLビジョンシステムの柔軟な運用・保守も難しくしています。
GenICamへの準拠
上記の問題を解決するには、カメラを標準化するとよいでしょう。GenICamに準拠すれば、カメラによるオンボード処理が可能になります。また、GenTLやV4L2(Video for Linux 2)などの標準ソフトウェアインターフェースを介してGMSLカメラを接続すれば、一般的なソフトウェアとの互換性も確保できます。
GMSLカメラでオンボード処理を行うメリット
多くのGMSLカメラとMIPIカメラは、オンボード処理に対応していないため、ホストシステムにISPを搭載し、センサーを制御する必要があります。

しかし、センサー制御に使用するドライバーは、センサーによって異なります。また、オンボード処理に対応していないカメラは、トリガー、入出力、自動処理、デベイヤリングなどができないため、ホストシステムにこれらの機能を実装しなければなりません。そこでおすすめなのが、各種オンボード処理が可能なBasler GMSLカメラです。主なメリットを以下にまとめました。
GenICam準拠
汎用カメラとして1種類のドライバーのみでホストシステムと接続可能。センサーの種類にかかわらず、マルチカメラシステムの構築やカメラの交換をスムーズに行うことができます。
シンプルなセンサー制御
ホストシステムのプログラミングを行わなくても、カメラ側でセンサー制御が可能。ホストシステムの更新・調整に伴う問題を減らすことができます。
一貫した画質
カメラにISPを搭載し、ホスト側ISPと独立して動作させることで、一貫した画質を実現。SoC/SoMの交換やホスト側ISPの更新を行った場合でも、画質に影響を与えません。特にAIの画像学習においては、信頼性を確保して再学習を防止するためにも、画質の一貫性が非常に重要になります。
柔軟な帯域幅管理
マルチカメラシステムの帯域幅管理において、レーン数に左右されない細かな分配を実現。各カメラの撮影要件に応じて帯域幅を最適化することで、柔軟な運用を可能にします。
幅広い画像形式
Mono8/10/12、Bayer8/10/12、YUV、RGB8によるデータ転送に対応。MIPI CSI-2やホストシステムの仕様にかかわらず、要件に応じて画像形式を自由に選択できます。
ホストシステムの種類
GMSLは、Linux ARM(Advanced RISC Machines)ベースのシステムをはじめ、MIPI対応のSoC/SoMを搭載したエンベデッドビジョンシステムの構築に最適です。SoC/SoMを組み込むホストシステムについては、用途に応じて事前設定済みの産業用コンピューターか、カスタム製のキャリアボードを選ぶとよいでしょう。
産業用コンピューター
GMSL対応の産業用コンピューターは、使用するSoMや物理インターフェースの数・種類によってさまざまな製品があり、一定のオプションを追加できるだけでなく、用途ごとに事前設定もされています。また、完全な筐体が付属していることも大きな特長で、IP規格やその他の耐久性要件に適合している場合もあります。
カスタムキャリアボード
特殊なハードウェアが必要な場合は、カスタム製のキャリアボードとSoMを組み合わせるとよいでしょう。既製のキャリアボードを調整し、省スペース化を図りながら、処理能力を向上させれば、要件に合ったホストシステムを構築できます。
ホストシステムの設定
GMSLカメラとホストシステムを接続するには、GMSL、MIPI CSI-2、ホストシステムのハードウェア構造に関する専門知識が必要になります。そのため、Baslerでは、指定メーカーの産業用コンピューターとカメラを簡単かつ自動的に接続できるカメライネーブルメントパッケージを提供しています。なお、Baslerの指定メーカー以外の産業用コンピューターを使用する場合は、個別に設定を行わなければなりません。
デバイスツリーを含むシステム設定は、非常に専門的で複雑です。個別で設定を行う場合は、以下の情報を確認するとよいでしょう。
デシリアライザーの種類
データレーン数、データ転送速度
デシリアライザーのI²Cアドレス
デシリアライザーとSoC/SoMの映像ユニットの接続方法(MIPI CSI-2経由)
Baslerの指定メーカーの産業用コンピューターを使用する場合は、カメライネーブルメントパッケージが便利です。このパッケージをアドオンとしてインストールすると、産業用コンピューターを正しく設定したうえで、GMSLカメラとプラグアンドプレイ接続が確立されるため、USBカメラと同じ感覚でシステムを構築できます。


Basler GMSLビジョンソリューション
GMSLカメラ、FAKRAコネクター付き同軸ケーブル、レンズ、照明、Linux用pylonから指定メーカーの産業用コンピューターに対応したカメライネーブルメントパッケージに至るまで、幅広いハードウェアとソフトウェアをワンストップでご提供。NVIDIA社製Jetson Orin™をベースにしたエンベデッドビジョンシステムを素早く簡単に構築できます。
Basler GMSLビジョンソリューションの詳細はこちらGMSLの用途
GMSLは、複数のカメラから構成されるエンベデッドビジョンシステムの構築に最適です。例えば、NVIDIA社製Jetson Orin™などGigEポートが1つしかないSoMを使用する場合、標準インターフェースの代わりにGMSLを導入すれば、ポート数の問題をスムーズに解決できます。

モバイルロボット

無人搬送車(AGV)

物流

AI画像解析によるファクトリーオートメーション
まとめ:GMSLによる柔軟かつ高度なエンベッドビジョンシステムの構築
優れた信頼性を備え、高解像度画像データの長距離転送に最適なGMSL。このインターフェースとISP搭載のカメラ、スマートなソフトウェアパッケージを組み合わせて、複数のカメラから構成されるエンベッドビジョンシステムを構築すれば、運用・保守にかかる労力を抑えながら、少ないコストでシステムの性能を最大化することができます。
GMSLに関するよくあるご質問(FAQ)
USB、GigEなどの従来型カメラインターフェースと異なり、シリアルインターフェースであるGMSLは、MIPI CSI-2をはじめとする幅広い映像通信規格の信号をトンネリングし、同軸ケーブルやシールドツイストペアを介して伝送することができます。しかも、多くのSoC/SoMはMIPI CSI-2に対応しており、GMSLカメラと直接接続できるため、複数のカメラから構成されるエンベッドビジョンシステムをはじめ、標準インターフェースでは難しいシステムの構築が可能です。
ただし、GMSLにはマシンビジョン規格がないため、USBやGigEと比較した場合、GMSLカメラとホストシステムの接続に大きな労力がかかります。この問題を解消するため、Baslerでは、指定メーカーの産業用コンピューターとカメラを簡単に接続できるカメライネーブルメントパッケージをご提供しています。
最大の問題は、汎用性です。GMSLには汎用カメラドライバーがないため、同一メーカーのカメラであっても、センサーが異なる場合は個別の設定が求められます。しかも、カメラ側のシリアライザーとホスト側のデシリアライザーの互換性を確保したうえで、正しく設定しなければなりません。また、カメラがオンボード処理に対応していない場合、ホスト側でセンサーを一括制御する必要があるため、システムの構築・保守・更新の難易度が上がります。
GenICamとオンボード処理に加え、GenTL、 V4L2などの共通ソフトウェアインターフェースに対応したカメラを使用すれば、カメラ側でセンサーを制御しながら、一般的なソフトウェア(OpenCV、HALCON、NVIDIA DeepStream SDK、Matrox Imaging Library(MIL)、Basler pylon SDKなど)との互換性も確保できます。
また、カメラメーカーが設定ソフトウェアを提供している場合もあります。例えば、Baslerカメライネーブルメントパッケージを使用すれば、指定メーカー(アドバンテック社、Lanner社、Neousys Technology社、Syslogic社など)の産業用コンピューターとカメラをプラグアンドプレイで接続できます。
GenICamとオンボード処理に対応し、センサーの種類にかかわらず、ドライバーや個別の調整なしで簡単に接続できるGMSLカメラのほか、指定メーカーの産業用コンピューターとカメラを接続するためのソフトウェアと設定情報がセットになったカメライネーブルメントパッケージがおすすめです。これらの製品を導入すれば、各種不具合や設定・更新・保守にかかる時間と労力が抑えられるため、GMSLの強みを最大限に活かしながら、USBと同じ感覚でビジョンシステムを運用できます。
システムとの電気的互換性はもちろん、ソフトウェアにも注意が必要です。センサーの種類にかかわらず、既存の画像処理ソフトウェアを使用するには、GenICam対応のカメラを選ぶとよいでしょう。また、カメラメーカーが設定ソフトウェアやドライバーを提供しているか、SoC/SoMのファームウェア更新にどれくらいの労力がかかるかを確認することも非常に重要です。オンボード処理に対応したカメラであれば、ホストシステムの負荷が抑えられるため、長期的な保守・拡張が容易になります。