レンズ選定におけるMTF曲線、センサーサイズ、ピクセルサイズの重要性
この記事では、空間周波数の異なるさまざまなレンズのMTF曲線を見ながら、カメラに合ったレンズを選定する方法について解説します。
MTF曲線の基本知識と活用方法については、「レンズ性能の評価におけるMTF曲線の活用方法」をご覧ください。
センサーサイズとMTF曲線
撮影の際に一貫した画質を確保するには、イメージサークルとセンサーサイズを確認したうえで、撮像可能範囲を考慮しながら、カメラに合ったレンズを選定することが重要です。
ケーススタディ
まず、イメージサークルに基づいたレンズの比較方法について詳しく見ていきましょう。
比較に使用するレンズは、PYRITE 4.0/45、PYRITE 4.5/90の2種類。カメラのセンサーサイズは42mm、レンズの絞り値はF5.6と仮定します。
センサーサイズ42mmの場合、撮像可能範囲は以下のようになります。
PYRITE 4.0/45(イメージサークル:43.2mm):撮像可能範囲とセンサーサイズがほぼ一致
PYRITE 4.5/90(イメージサークル:90mm):撮像可能範囲がセンサーサイズのほぼ2倍(黒塗り部分が未使用の状態)
イメージサークルに基づいたレンズの比較結果
上の図が示すように、イメージサークルを考慮に入れず、MTF曲線のみを比較した場合、PYRITE 4.0/45とPYRITE 4.5/90の性能はほぼ同じです。
しかし、イメージサークルを考慮に入れた場合、PYRITE 4.0/90のMTF曲線がPYRITE 4.5/45のMTF曲線より平らになるため、PYRITE 4.0/90のほうが性能は高いといえます。
イメージサークルと画素数の関係性
次に、画質に影響する要素として、イメージサークルと画素数の関係性について解説します。
以下の2枚の画像は、焦点距離50mmの2種類のレンズを使用して同じ場面を撮影したものです。絞り値とイメージサークルは同じで、センサーサイズとイメージサークルも合っています。
では、なぜこの2枚の画像の画質はこれほど異なるのでしょうか。その理由は画素数にあります。
以下にあるクマのぬいぐるみの画像をご覧ください。この3枚の画像は同じカメラで撮影されたもので、イメージサークルとセンサーサイズも合っています。しかし、センサーサイズが同じでも、画素数とピクセルサイズによって全体的な画質と解像度は変わります。
ピクセルサイズが大きい低画素カメラを使用する場合、レンズの画素数が異なっても画質に違いは見られません。しかし、ピクセルサイズが小さい高画素カメラを使用する場合は、レンズの画素数によって画質が大きく左右されます。
エアリーディスク - ピクセルサイズが画質に影響する理由
対象物のある1点から発せられた光がレンズを通過すると、センサー上に「エアリーディスク」と呼ばれる同心円状の明るい領域が形成されます。撮影の際、このエアリーディスクより小さい範囲に結像させることはできません。
センサー上に形成されるエアリーディスクの大きさは、レンズの画素数によって変わります。
ピクセルサイズがエアリーディスクより大きいと、画質の面で明確な違いが現れることはありません。
つまり、古いタイプの低画素カメラで撮影を行う場合、ピクセルサイズがエアリーディスクより大きくなるため、レンズの画素数が異なっても、画質はほぼ変わりません。しかし、高画素カメラで撮影を行う場合、ピクセルサイズがエアリーディスクより小さくなるため、レンズの画素数が低いと、最終的な画像がぼやけてしまいます。
ピクセルサイズと空間周波数
ビジョンシステムの性能を最大限に引き出し、細部まで鮮明な画像を撮影するには、レンズの空間周波数とカメラのピクセルサイズを把握したうえで、同じ解像力を持つレンズとカメラを組み合わせることが重要になります。
それでは、空間周波数を使用し、最適なピクセルサイズを算出してみましょう。
空間周波数(lp/mm)=1000÷(2×ピクセルサイズ(µm))またはピクセルサイズ(µm)=1000÷(2×(lp/mm))
コントラスト30%、空間周波数50lp/mm(1mmの中に白と黒の縞が50本ずつ存在)の場合
ピクセルサイズ(µm)=1000÷(2×(50))=10µm
コントラスト30%、空間周波数100lp/mm(1mmの中に白と黒の縞が100本ずつ存在)の場合
ピクセルサイズ(µm)=1000÷(2×(100))=5µm
以上より、空間周波数50lp/mmのレンズはピクセルサイズ10µmのカメラ、空間周波数100lp/mmのレンズはピクセルサイズ5µmのカメラとフィットすることがわかります。
レンズとカメラの解像力が同じであれば、白と黒の縞を明確に区別できます。もちろん、理論上の数値と現実の数値は異なります。レンズの解像力が足りない場合は、シャープネスとコントラストが低下し、白と黒の縞がぼやけて灰色に映る可能性があります。
解像力を評価する際には、画素数(MP)や空間周波数(lp/mm)だけでなく、コントラストにも配慮しなければなりません。一般的なレンズメーカーは、鮮明な画像を撮影するために30%のコントラストを確保することを推奨しているため、コントラスト30%における空間周波数の値を指標にするとよいでしょう。
指標となる空間周波数(lp/mm)=1÷(2×ピクセルサイズ×0.7)
ケーススタディ
最後に、ピクセルサイズ7µmのカメラとPYRITE 4.5/90を組み合わせた場合、どのような評価になるのか詳しく見ていきましょう。
コントラスト68%、空間周波数40lp/mm(1mmの中に白と黒の縞が40本ずつある)の場合
ピクセルサイズ(μm)=1000÷2×40×0.7=8.75μm
コントラスト44%、空間周波数80lp/mm(1mmの中に白と黒の縞が80本ずつある)の場合
ピクセルサイズ(μm)=1000÷2×80×0.7=4.375μm
MTF曲線を見ると、コントラスト60%、空間周波数40lp/mmによる撮影が求められる場合、PYRITE 4.5/90は性能要件を満たしているといえます
しかし、コントラスト50%、空間周波数80lp/mmによる撮影が求められる場合は、PYRITE 4.5/90だと解像力が足りず、全体的な画質が低下するおそれがあります。
まとめ
ビジョンシステムの画質を向上させるには、レンズのMTF曲線を活用することが必要不可欠です。空間周波数、センサーサイズ、ピクセルサイズを把握したうえで、カメラに合ったレンズを選定すれば、鮮明な画像を撮影することが可能です。
選定の際には、レンズのイメージサークルとカメラのセンサーサイズを合わせることで、撮影時に一貫した画質を確保できます。
MTF曲線上の性能は同じでも、イメージサークルとセンサーサイズが合っていなければ、最適な画質は実現できません。
また、イメージサークルに加え、レンズの画素数も画質に影響します。カメラのピクセルサイズが小さいにもかかわらず、低画素のレンズを使用した場合、最終的な画像の解像度が低下してしまいます。
このほか、システム全体の性能を向上させるには、カメラのピクセルサイズとレンズの空間周波数を合わせることも非常に重要です。空間周波数に基づき、最適なピクセルサイズを算出すれば、必要な画質を簡単に確保できます。
以上のように、MTF曲線、センサーサイズ、ピクセルサイズの三者の関係性を理解したうえで、最適なレンズを選定すれば、ビジョンシステムの画質を最大限に引き出すことができるでしょう。
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