レンズ性能の評価におけるMTF曲線の活用方法
MTF曲線を活用したレンズの選定
明確な製品仕様があるカメラやコンピューターと異なり、最適なレンズを選定することは簡単ではありません。そのため、レンズメーカーでは、特定の環境下におけるレンズ性能を示す指標として、MTF(変調伝達関数)に関する情報を公開しています。
産業用途・民生用途を問わず、MTF曲線は広く活用されています。以下は、民生用途向けの一般的なMTF曲線を示したものです。プロ、アマチュアの写真撮影をはじめとする民生用途では、正確な測定を行うためではなく、レンズのコントラストや解像力を簡単に評価するためにMTF曲線を使用します。
一方、産業用途の場合は、レンズの結像性能、コントラスト再現性、画像の均一性が主な評価内容になります。この記事では、MTF曲線の詳しい意味や、レンズを比較する際のポイントについて解説します。
MTF曲線について
MTF曲線とは、光学系(レンズ、カメラなど)のコントラスト再現性と結像性能を示した指標のことです。代表的なMTF曲線では、Y軸(%)にコントラスト、
X軸(lp/mm)に白と黒の縞の間隔、つまり空間周波数が表示されます。
例を挙げて説明してみましょう。
1 lp/mmの場合、1mmの中に白と黒の縞が1本ずつあることになります。つまり、白と黒の縞の幅は0.5mmです。
同様に、10 lp/mmの場合は、1mmの中に白と黒の縞が10本ずつあるため、白と黒の縞の幅は0.05mmとなります。
そして、100 lp/mmになると、白と黒の縞の幅は5µm(0.005mm)まで狭まります。
空間周波数が大きいほど、解像力が高いことになるため、高精細撮影が求められる場合は、 lp/mmの値が非常に重要です。
実際の撮影では、光学系で捉えた縞模様の情報がセンサーに転送されるわけですが、以下の図にあるように、縞の幅が狭くなればなるほど、白と黒の縞の区別が難しくなります。この現象をグラフ化したものがMTF曲線であり、レンズのコントラストや解像力の評価に非常に役立ちます。
MTF曲線の種類
レンズの性能を可視化したMTF曲線は、大きく2つのタイプに分けられます。一つ目は「空間周波数特性」を示したもので、X軸に空間周波数(lp/mm)が表示されます。しかし、このタイプのMTF曲線は、センサー面の全体にわたるレンズのはっきりした性能がわからないというデメリットがあります。そして、これを解決するのが二つ目の「像高特性」を示したMTF曲線です。このタイプはX軸が像高(mm)、つまり画像の中心から端までの距離になっており、センサー面の全体にわたるレンズの性能を正確に評価できます。ただし、測定可能なlp/mmの値が限られるため、一般的なlp/mmの値に対応した曲線のみが表示されます。
これら2つのタイプのMTF曲線は、表現の仕方こそ異なるものの、実際の情報に変わりはありません。空間周波数特性の曲線からは、特定の空間周波数において、対象物のコントラストがどれぐらい正確に再現されているかがわかります。一方、像高特性の曲線は、特定のlp/mmにおける画像の中心から端までの解像力を表したもので、特に広角撮影を行う場合に参考になります。それでは、2つのMTF曲線について、さらに詳しく見ていきましょう。
タンジェンシャル方向(T)とサジタル方向(S)について
MTF曲線には、タンジェンシャル方向(T)とサジタル方向(S)の2種類の曲線があります。そのうち、タンジェンシャル方向(別名:メリディオナル方向)は、画像中心から放射方向へ伸びる光線を捉えたもので、実線で表されます。一方、サジタル方向は、画像中心から同心円方向へ伸びる光線を捉えたもので、点線で表されます。なお、通常のレンズはタンジェンシャル方向に基づいているため、点線より実線のほうがMTFの数値が高くなる傾向があります。
一般的に、サジタル方向とタンジェンシャル方向の特性が似ているほど、つまりMTF曲線上の実線と点線の間隔が近いほど、X軸とY軸が示す撮像性能が良くなり、均一な画像を撮影できます。逆に、サジタル方向とタンジェンシャル方向の差が大きいと、レンズの非点収差が増大し、画像が不均一になります。以上のことから、画質を向上させたい場合は、2本の曲線の重なり具合を確認するとよいでしょう。
MTF曲線を活用したレンズの解像力の評価
MTF曲線の値が高いレンズは、コントラストと解像力が良く、微細な構造物を正確に再現できます。一方、MTF曲線の値が低いレンズは、コントラストと解像力が悪いため、細かな撮影には向いていません。
これまでに解説した内容を理解していれば、メーカーごと、モデルごとのレンズの評価や比較が簡単にできるはずです。
試しに以下の3つのMTF曲線から、それぞれのレンズの解像力を読み取ってみましょう。
まとめ レンズの比較や選定に便利なMTF曲線は、以下の性能の評価に使用できます。
解像力:対象物の細部における再現性を含め、鮮明な画像を撮影するために必要
コントラスト:さまざまな空間周波数におけるコントラストを含め、異なる環境下において明暗差がはっきりした画像を撮影するために必要
センサー面の全体にわたる性能:画像の中心から端までの解像力を含め、画像の均一性を確保するために必要
レンズのMTF曲線を比較すれば、光学特性を確認しながら、最適な意思決定を行うことができます。しかし、実際の撮影においては、センサーのイメージサイズ、拡大率、F値なども考慮しなければなりません。次の記事では、用途に合ったレンズの選定をサポートするため、MTF曲線と他の数値を組み合わせて評価する方法についてご紹介したいと思います。
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