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TDIラインスキャンカメラ:アナログTDIとデジタルTDIの比較

高速製造ラインにおいて、物体表面の微細な欠陥を検出するには、製造速度に影響することなく、高い感度で撮影を行わなければなりません。そこでおすすめなのが、時間遅延積分方式により、スループットを維持したまま、感度を大幅に向上させるTDIラインスキャンカメラです。以下では、アナログTDIとデジタルTDIを比較しながら、主な用途(半導体検査、ディスプレイ検査、プリント基板検査、シート検査)や、用途に応じて最適なTDI方式を選択する方法について解説します。

  • 最終更新日: 2026/03/25

アナログTDIとデジタルTDIの比較
アナログTDIとデジタルTDIの比較:積算処理による高速撮像時の感度向上

TDIの概要と仕組み

センサー面の画素を1列ずつ読み出すラインスキャンカメラは、エリアスキャンカメラと違って動体歪みが発生せず、被写体の長さに制限もないため、ウエハー、ディスプレイ、プリント基板(PCB)、シート材などの撮影に最適です。しかし、露光時間をμs単位まで抑えなければならない場合、約4%の光しか反射しないベアシリコンをはじめ、反射性の低い物体を撮影すると、画像のノイズが増大してしまいます。

TDIとは、被写体の同一部位を繰り返し露光しながら、明るさを積算していく読み出し方式を指し、アナログTDIとデジタルTDIの2種類があります。

  • アナログTDI:CCDセンサー/ハイブリッドCMOSセンサー(ステージ数:32~256段)を使用、アナログ領域で電荷を蓄積するTDI方式

  • デジタルTDI:マルチラインCMOSセンサー(ライン数:4ライン)とカメラのFPGAを使用し、デジタル信号を加算するTDI方式

いずれのTDI方式も、高速ラインスキャン撮影における光感度と画像の明るさの向上を目的としていますが、仕組みや達成可能な感度、システムコストが大きく異なります。そのため、用途に応じて最適なTDI方式を選択するには、両者の違いを深く理解しなければなりません。

アナログTDIとデジタルTDIの仕組み

TDIラインスキャンカメラ:Basler racer 2 XL(16K)
TDIラインスキャンカメラ:Basler racer 2 XL(16K)

アナログTDI

アナログTDIは、光を電荷に変換した後、被写体の動きに合わせて電荷をステージからステージへ転送しながら、センサー内部で蓄積します。一般的なステージ数は、32~256段です。

また、アナログ領域で電荷を転送しながら蓄積し、最終的なA/D変換の1回のみしか読み出しノイズが発生しないため、感度とSN比が大幅に向上し、0.1ルクス以下の低照度環境においても、電力を2~4Wに抑えながら、高精度な撮像を実現できます。

ただし、ステージ数が多くなると、被写体の動きに合わせて電荷を転送することが難しくなります。特にステージ数が多いTDIセンサーを使用する場合は、 搬送管理とエンコーダーへのフィードバックを正確に行わなければならず、被写体の搬送速度とラインレートがずれると、画像にブレが発生します。


デジタルTDI対応のBasler racer 2 L(8K/16K、モノクロ)
デジタルTDI対応のBasler racer 2 L(8K/16K、モノクロ)

デジタルTDI

並列4ラインのCMOSセンサーを使用するデジタルTDIは、被写体の動きに合わせて露光タイミングをずらしながら、各ラインで同一部位を読み出した後、カメラのFPGA上で空間補正を実施したうえで、デジタル形式の画素データを生成します。

このように、動く被写体に対して複数回の露光を行い、読み出したデータを加算することでも、高速ラインスキャン撮影における光感度と画像の明るさの向上は可能です。ただし、ラインごとに信号をデジタル化してから加算処理を行うため、毎回読み出しノイズが発生し、アナログTDIよりも感度が低くなります。

信号ロスと加算時の画質低下を抑えるには、 A/D変換の質を向上させるとともに、デジタル信号処理を行うとよいでしょう。

また、アナログTDIと同様に、デジタルTDIも被写体の搬送速度とラインレートを合わせる必要があります。±5~10%程度のわずかな誤差であれば、FPGAの空間補正で修正できますが、誤差が大きくなると、画像にブレが発生します。

アナログTDIとデジタルTDIの性能比較

上記で説明したように、アナログTDIとデジタルTDIの主な違いは、積算処理のタイミングにあります。両者の詳しい違いを以下の表にまとめました。


デジタルTDI (A/C変換後に加算)

アナログTDI (電荷のまま蓄積)

技術的な注意点

積算時の信号形式

デジタル(A/C変換後にFPGA上で加算)

アナログ(電荷のまま蓄積した後にA/C変換を実施)

基本的なノイズフロアとゲインに影響

積算回数(N)

少ない(ライン数:4ライン)

多い(ステージ数:32~256段)

達成可能な最大光感度に影響

読み出しノイズの発生

N回(読み出しごとに発生)

1回(最終的なA/D変換時のみ発生)

最終的な光感度に影響

アナログTDIの場合でも、低照度下のSN比は概ね√N倍で改善

照度要件

やや暗い(0.5ルクス以上)

非常に暗い(0.1ルクス以下)

暗視野検査/EL検査に影響

必要な同期精度

±5~10%(わずかな誤差は許容可)

±0.1%~0.5%(正確な同期が必要)

機器接続の複雑性・コストやエンコーダーの要件に影響

波長範囲

カラー撮影/マルチスペクトル撮影が可能

モノクロ撮影のみ(SN比最大時)

色情報が必要な撮影用途(プリント基板検査など)に影響

システムコスト

低い(標準CMOSセンサー、機器に対する精度要件が低め)

高い(専用のハイブリッドセンサー、高精度な機器が必要)

システム構築で最も重視される予算に影響

備考

  • TDI撮影では、積算回数(N)が増えるほど、信号が増幅されます。

  • そのうち、アナログTDIの場合は、読み出しノイズが1回しか発生しないため、ノイズが緩やかに増加します(√N倍)。

  • 一方、デジタルTDIの場合は、各ラインの読み出しごとにノイズが発生するため、ノイズが急速に増大し、低照度下の有効SN比が低下します。


TDI方式の選択に関するお問い合わせ

専門スタッフが個別の検査要件をお伺いしたうえで、感度・撮影速度・照明条件に配慮しながら、最適なソリューションをご提案いたします。

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アナログ方式またはデジタル方式を問わず、TDIの主な目的は、高速ラインスキャン撮影における光感度と画像の明るさの向上にあります。積算回数が少なくても問題ない場合(4回程度)は、アナログTDIより低コストでありながら、感度と明るさを十分に向上できるデジタルTDIを選択するとよいでしょう。
Enso Tseng
Enso Tseng
システム解析エンジニア | R&D

TDIの主な用途

TDI方式の選択方法&チェックリスト


柔軟性に優れたデジタルTDI(マルチラインCMOSセンサー)と、感度に優れたアナログTDI(TDIセンサー)のどちらを選択するかは、実際の用途とカメラの性能によって異なります。TDI方式を選択する際には、照明コスト、システムの同期精度、全体的な予算の3点を中心に考慮するとよいでしょう。ご参考までに、撮影要件ごとの適性をまとめたチェックリストを以下に示します。

撮影要件

デジタルTDI

アナログTDI

低コスト

×

照度0.5ルクス以上

搬送速度とラインレートの誤差(±5%)の補正

×

照度0.5ルクス以下(特に0.1ルクス以下の場合)

×

サブミクロンの亀裂・残渣の検出/EL検査

×

ベアシリコンの暗視野検査

×

クリーンルームにおける熱抑制

モノクロ撮影

まとめ


アナログTDIほどの高感度が必要ない場合、デジタルTDIを導入することで、高速ラインスキャン撮影においても、光感度と画像の明るさを効果的に向上させることができます。

裏面照射型ハイブリッドCMOSセンサーなどを使用するアナログTDIについては、半導体前工程のウエハー検査や100nm以下の微細な欠陥検出をはじめ、低照度下で極めて高い感度を実現する必要がある場合にのみ選択するとよいでしょう。

TDI方式を選択する際のポイント

  • デジタルTDI:システムコストを抑えながら、感度をある程度向上させたい用途に最適

  • アナログTDI:システムの設計段階において、照度が極めて低い(0.3ルクス以下)ことが想定される場合にのみ選択

  • 拡張性:将来的に感度や撮影速度を向上させたいなら、ハイブリッドCMOSセンサーを搭載した新型TDIラインスキャンカメラもおすすめ

  • 検証試験:照明コスト、必要な波長範囲、搬送速度の安定性などを考慮したうえで、実際の製造ラインで検証試験を実施し、歩留まりとスループットを確認することが非常に重要


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TDIに関するよくあるご質問(FAQ)

いいえ、TDIによってカメラのラインレートは向上しません。その代わり、検査速度を維持したまま、光感度と画像の明るさを向上させることができます。

アナログTDIでは、被写体の搬送速度とラインレート(電荷の転送速度)を同期しながら、正確なタイミングで露光を行わなければなりません。搬送速度とラインレートの同期が崩れると、本来の位置からずれた状態で電荷が蓄積され、画像にブレが発生します。

デジタルTDIでは、複数回の露光を行いながら、各ラインが被写体の同一部位を捉えるようにしなければなりません。そのため、アナログTDIと同様に、被写体の搬送速度とラインレートを正確に同期する必要があります。搬送速度とラインレートの同期が崩れると、本来の位置からずれた状態で信号が加算され、画像にブレが発生します。

主な注意点

  • デジタルTDIは、一般的なラインスキャン撮影と異なる

  • デジタルTDIとアナログTDIは、いずれも搬送速度とラインレートの同期が必要

  • デジタルTDIとアナログTDIの主な違いは、必要な同期精度ではなく、積算処理を行うタイミング

わずかな誤差であれば、FPGAの空間補正で修正できますが、誤差が大きくなると、画像にブレが発生します。

照度が極めて低い場合、非常に微細な欠陥の検出が求められる場合は、アナログTDIを採用する必要があります。

  • ウエハーの暗視野検査

  • EL検査

  • 低コントラスト/サブミクロンの欠陥の検出

上記の用途でアナログTDIを採用すれば、SN比を最大限に向上することができるでしょう。

ただし、システムを構築する際は、以下の要素も考慮しなければなりません。

  • 使用可能な照明

  • 光学系、撮影倍率

  • 搬送速度の安定性

  • 欠陥のコントラスト

デジタルTDIで十分か、それともアナログTDIが必要かについては、検証試験を実施したうえで決定することをおすすめします。

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