カメラ技術

画像処理におけるリアルタイム性

ビジョンシステムのリアルタイム性は、ロボット作業、品質管理をはじめ、高速画像処理が求められる用途の効率性と安定性を大きく左右します。以下では、ハードウェアとソフトウェアを最適に組み合わせることで、マイクロ秒単位の安定した応答速度を確保しながら、リアルタイム性に優れたビジョンシステムを構築する方法について解説します。

  • 最終更新日: 2025/12/16

リアルタイム性に関する重要事項

  • 産業用画像処理の精度・安定性・効率性にリアルタイム性が大きく影響

  • レイテンシーを抑えた正確な同期により、高速画像処理に欠かせない応答速度が向上

  • GigEレイテンシーは中程度であるものの、セットアップが簡単で柔軟な撮影が可能

  • CoaXPress:広帯域幅かつレイテンシーが非常に少なく複数のカメラによる高速撮影に最適

  • 画像処理の品質と信頼性を確保するには、適切なビジョン機器とインターフェースの選定が必要不可欠

高速画像処理に欠かせないリアルタイムな撮像

最先端の自動化設備において、ビジョンシステムに応答遅延や同期不良が発生すると、たとえそれがマイクロ秒単位であったとしても、誤分類、ダウンタイム、製造ミスなどにつながります。最小限の時間で最大限の結果を得るには、レイテンシーを抑えながら、リアルタイムかつ安定した撮像を実現しなければなりません。

正確な同期とレイテンシーの低減に欠かせないリアルタイム性

CoaXPressの代表的な用途:外観検査
CoaXPressの代表的な用途:外観検査

ロボット作業、品質管理をはじめ、高速・高精度な画像処理が求められる用途において、リアルタイム性は必要不可欠な要素です。

リアルタイム性を確保すれば、

  • システムの全構成機器の正確な同期

が可能になり、画像取得・処理から解析結果の出力に至るまで、作業全体を効率化できます。

PTP(Precision Time Protocol)

また、リアルタイム性は、外部機器を使用してカメラをトリガーする 高速撮影用途を中心に、画像処理の安定性予測可能性を評価する指標にもなります。なお、カメラのトリガーから画像取得までの許容応答時間は、数マイクロ秒から数秒まで幅があり、用途によって異なります。

画像処理のレイテンシー要件

産業用画像処理の品質と信頼性を確保するうえで、レイテンシーは非常に重要です。ここでいうレイテンシーとは、処理の要求から応答までの時間を指します。例えば、カメラのトリガーから画像取得までの時間もレイテンシーに該当します。レイテンシーは、欠陥の誤検出、製造遅延、同期ずれなどの原因となるため、ビジョンシステムを構築する際には、レイテンシー要件を確認したうえで、それぞれの撮影用途に合った構成機器を選定しなければなりません。

レイテンシー要件があまり厳しくない用途

応答速度よりも撮影画質や画像解析の精度が重視される場合、ミリ秒単位のレイテンシーが発生しても、画像処理の品質と信頼性には影響しません。レイテンシー要件があまり厳しくない用途には、以下のようなものがあります。

  • 文書の撮影・保存

  • 長期的な製造分析

  • リモート監視・リモート保守

  • 防犯撮影・監視撮影

上記の用途では、多くの場合でミリ秒単位のレイテンシーが許容されます。

レイテンシー要件が非常に厳しい用途

産業用画像処理の世界では、ミス防止と工程管理の向上を目的として、レイテンシーをマイクロ秒単位まで抑えなければならない用途もあります。特に高速撮影と正確な同期が求められる場合、わずかな遅延が製造不良や品質低下につながります。レイテンシー要件が非常に厳しい用途には、以下のようなものがあります。

  • 高速製造ラインの撮影

  • ピックアンドプレースロボットのナビゲーション

  • 製造工程のリアルタイムな品質管理

  • 複数のカメラによる3D測定

上記の用途では、高速かつ正確な処理と画像データ転送が必要不可欠になります。

リアルタイムな画像処理に適したインターフェース:GigE、CoaXPress

GigEは、レイテンシー要件があまり厳しくない低速撮影用途に最適なインターフェースです。リアルタイム性はそれほど高くありませんが、長距離ケーブルが使用できるなど柔軟性に優れています。

一方、CoaXPressは、レイテンシー要件が非常に厳しい高速撮影用途

GigE Visionロゴ
CoaXPressロゴ


GigE(ギガビットイーサネット)

CoaXPress(CXP)

レイテンシー

ミリ秒単位

マイクロ秒単位

帯域幅

最大1Gbit/s(GigE)、10Gbit/s(10GigE)

最大12.5Gbit/s(ケーブル1本当たり)

ケーブル長

最大100m(標準GigEケーブル)

最大40m(最大帯域幅時)

同期精度

低い(ネットワークベース)

非常に高い(ハードウェアベース)

複数のカメラの運用※

多数のカメラを運用できるが、ネットワークに制限あり

少数のカメラしか運用できないが、拡張性が高い

システムコスト

低い(標準機器を使用可能)

高い(フレームグラバーが必要)

主な用途

監視、文書撮影、リモート監視

ロボット作業、眼科診療、手術、高速検査、3D測定、リアルタイムな品質管理

システム構築

シンプル(標準機器を使用可能)

複雑(専用機器が必要)

推奨用途

レイテンシー要件があまり厳しくない用途

レイテンシー要件が非常に厳しい用途

※GigEの場合、カスケード対応スイッチを介して多数のカメラを接続できますが、ネットワークに制限があるため、レイテンシーが増大し、リアルタイム性が低下します。

一方、CoaXPressの場合、カメラを正確に制御できるものの、ケーブル1本につきカメラを1台しか接続できず、またフレームグラバーのポート数とコンピューターのPCIeスロット数が限られているため、マルチカメラシステムの構築に多大な時間と労力がかかります。

ホワイトペーパー

カメラをリアルタイムに同期:GigEネットワークを活用した複数カメラの制御

このホワイトペーパーでは、GigE Vision 2.0を活用し、追加のケーブルなしで複数のカメラをリアルタイムに同期する方法について解説します。

ホワイトペーパーを読む

リアルタイムな画像処理の実現における課題

カメラのトリガーから画像取得までの時間、つまりレイテンシーが少ないほど、ビジョンシステムの画質は向上します。例えば、フレームレート300fpsの高速撮影を行う場合は、レイテンシーをマイクロ秒単位に抑えなければなりません。また、画像取得時のジッターのバラつきを防止することも、レイテンシーを低減するうえで非常に重要です。

  • レイテンシーとジッター

レイテンシーとジッターは、画像処理の速度や画像解析の精度に大きく影響します。しかし、レイテンシーを最小限に抑えながら、ジッターのバラつきを防止することは、決して簡単ではありません。

  • データ容量と帯域幅

大容量の画像データをリアルタイムに処理し、転送するには、広帯域幅を備えた高性能なハードウェアが必要です。画像データの処理・転送速度が不十分な場合、システムの動作不良や作業の遅延につながります。

  • 同期精度

マルチカメラシステムを運用する場合、撮影タイミングがずれて画像データに不具合が発生すると、画像解析の精度が低下するため、正確な信号制御と同期が欠かせません。

  • 処理性能

高度なアルゴリズムを使用して瞬時に画像を解析しなければならない場合など、高いリアルタイム性が求められる用途では、CPUに大きな負荷がかかるため、プロセッサーやシステム全体の性能に対して厳しい要件が課されます。

事例紹介:リアルタイムなナビゲーションによる倉庫管理の自動化

自動倉庫管理向けの無人搬送車やモバイルロボットには、リアルタイム性の高いビジョン機器が使用されています。センサーがリアルタイムに収集したデータと画像情報がなければ、周辺環境の把握や障害物の早期検知、走行ルートの決定ができません。また、サイクルタイムを短縮しながら、365日24時間体制で物品を搬送し、生産性を向上させるには、高速・高精度な画像処理が求められます。このように、リアルタイム性に優れたビジョンシステムは、最先端の物流現場において、作業の効率化と安定性・柔軟性の向上を実現するうえで欠かせない存在であるといえます。

自動倉庫管理
画像取得から画像処理・解析に至るまで、ビジョンシステムの全構成機器を正確なタイミングで動作させるには、リアルタイム性の確保が欠かせません。また、リアルタイム性は、ミリ秒単位の遅延が許されない用途を中心に、画像処理の安定性と予測可能性を評価する指標にもなります。特に仕分け、位置特定、不良排除などの用途においては、カメラ、プロセッサー、アクチュエーターを確実に同期することが求められるため、リアルタイム性が非常に重要になります。
Michael Noffz
プロダクトマネージャー - ‍Basler AG製品‍システム性能部門
適切な照明システムを選択・購入するには?

正確な同期をサポートする照明製品

ロボット、医療などの用途において画像を1ラインずつ読み込む場合、画像取得の露光時にマイクロ秒単位の精度パルス光を照射するため、レイテンシーを最小限に抑えなければなりません。特にベルトコンベヤー上の作業や眼科検査をはじめ、動体撮影を伴う用途では、わずかなレイテンシーが対象物の位置ずれや露光過多につながります。Baslerでは、レイテンシーの低減と正確な同期をサポートする照明製品をご提供することで、これらの高度な用途における信頼性の向上に貢献しています。

リアルタイムな画像処理を実現するハードウェアとソフトウェア

Baslerのハードウェアとソフトウェアを最適に組み合わせれば、リアルタイムな画像処理を実現できます。インターフェースについては、レイテンシー、帯域幅、同期精度など個別の要件を考慮したうえで、GigEまたはCoaXPressを選択するとよいでしょう。

ミリ秒単位の画像処理が可能なGigE対応ビジョンシステム
ミリ秒単位の画像処理が可能なGigE対応ビジョンシステム

リアルタイム性重視:GigE対応ビジョンシステム向け製品

リアルタイム性を重視したGigE対応ビジョンシステムを構築する場合、以下のハードウェアとソフトウェアがおすすめです。

  • Basler GigE対応カメラ
    産業用途に最適なBasler
    GigE対応カメラ は、高画質・高フレームレートに加え、高精度なトリガー入力も備えており、長期にわたって安定した運用が可能です。

  • 接続機器
    標準的な
    GigEケーブル やGigEスイッチが使用可能。ケーブル長を柔軟に調整しながら、既存のIT設備に簡単に接続できます。

  • Basler GigEインターフェースカード(オプション)
    さらなる速度向上が求められる用途向けに、レイテンシーを最小限に抑えながら、ホスト側に画像データを直接転送する
    PCカード もご用意しています(2026年第1四半期発表予定)。

  • pylon Software Suite pylon Software Suiteは、カメラの設定・制御・評価を行うためのソフトウェアです。画像取得、トリガー制御、リアルタイムなデータ転送が可能な標準APIを備えています。

  • VisualApplets(オプション)
    VisualAppletsは、画像処理アルゴリズムを開発し、FPGAに実装するためのソフトウェアです。
    Basler ace 2 GigE対応モデルのFPGA上で画像を前処理することで、CPU負荷を大幅に軽減できます。


GigE対応ビジョンシステムの構築例

最大フレームレート20fps(50ミリ秒/枚)のカメラを使用する場合、ミリ秒単位の画像処理が可能です。

GigE対応ビジョンシステムは、システム構成の柔軟性と拡張性が高いため、工程監視品質管理文書撮影などレイテンシー要件があまり厳しくない用途に最適です。

マイクロ秒単位の画像処理が可能なCoaXPress対応ビジョンシステム
マイクロ秒単位の画像処理が可能なCoaXPress対応ビジョンシステム:9MPセンサーを使用した場合のフレームレート、露光時間、ライン処理時間の計算式

リアルタイム性重視:CoaXPress対応ビジョンシステム向け製品

リアルタイム性を重視したCoaXPress対応ビジョンシステムを構築する場合、以下のハードウェアとソフトウェアがおすすめです。

  • Basler CoaXPress対応カメラ
    高性能なBasler
    CoaXPress 2.0(CXP-12)対応カメラ は、レイテンシーを最小限に抑えた超高速データ転送が可能であるため、高フレームレートによるリアルタイムな撮影が求められる用途に最適です。

  • Basler CoaXPressフレームグラバー
    CoaXPress信号の直接入力が可能な
    フレームグラバーとして、画像データを前処理したうえで、マイクロ秒単位の速度でホスト側に転送できます。複数のカメラや外部信号の同期にも対応しています。

  • CoaXPressケーブル
    高品質な
    同軸ケーブルが使用可能。データ転送と電源供給を同時に行うPoCXP(Power over CoaXPress)に対応しているため、ケーブルのコストを抑えながら、接続の信頼性を向上させることができます。

  • pylon Software Suite
    pylon Software Suiteは、CoaXPressにも対応しており、カメラやフレームグラバーの制御・同期・評価を正確かつリアルタイムに行うことができます。

  • VisualApplets
    フレームグラバー上で画像をリアルタイムに処理したいなら、
    VisualAppletsがおすすめです。CPUに余計な負荷をかけることなく、FPGA上で高度な画像処理アルゴリズムを運用できます。


CoaXPress対応ビジョンシステムの構築例

最大フレームレート400fps(2.5ミリ秒/枚)のカメラを使用し、画像を1枚ずつ(または1フレームずつ)ではなく、1ラインずつ読み込む場合、マイクロ秒単位の画像処理が可能です。

さらに、画素数9MP(3000×3000)の正方形センサーを採用すれば、1ライン当たり0.8マイクロ秒(833ナノ秒)の処理速度を実現できます。

CoaXPress対応ビジョンシステムは、複数のカメラによる高速撮影をはじめ、レイテンシー要件が非常に厳しい用途に最適です。

関連製品

リアルタイムな画像処理を実現する製品を幅広く取り揃えています。

リアルタイム性に関するよくあるご質問(FAQ)

リアルタイム性が高いカメラとは、どのようなカメラですか?
レイテンシーを抑えた画像データ転送と、FPGA搭載機器を介した正確なトリガーが可能なカメラを指します。
Baslerラインスキャンカメラの中で最もリアルタイム性が高い
racer 2 L の場合、最大ラインレート200kHZにより、1ライン当たり5マイクロ秒の転送速度を実現できます。

リアルタイム性が高いカメラにおすすめのインターフェースはありますか?
CoaXPressとGigEがおすすめです。パケット遅延の低減をはじめ、さまざまなパラメーターが最適化されているため、産業用途を中心にリアルタイムな画像処理を実現できます。

ビジョンシステムのリアルタイム性を向上させるには、どうしたらいいですか?
FPGAプログラミングソフトウェア(VisualAppletsなど)、高速インターフェース、pylon Software Suiteを導入し、システムの全構成機器を正確に同期すれば、リアルタイム性を向上させることができます。

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