ビジョンシステムにおける画像の前処理
画像データを最適化し、ビジョンシステムの性能を向上
最先端のビジョンシステムにおいて重要な役割を果たしている画像の前処理。画像データの最適化や画像データクレンジングに加え、必要に応じて画像データの容量を削減し、マシンビジョンカメラで撮影したRAW画像を後続工程に適した形式に変換すれば、画質向上、システムコストの削減、ホストコンピューターにかかる負荷の軽減などさまざまなメリットが得られます。
最終更新日: 2026/01/12
画像の前処理について
画像解析の事前準備として、マシンビジョンカメラ、フレームグラバー、エンベデッドプロセッサー上で専用のアルゴリズムを運用し、画像データにさまざまな加工を行うことを画像の前処理といいます。特に高速・高精度かつ安定した撮像が求められる場合は、画像の前処理による画質向上・画像データの最適化・ホスト負荷の軽減が欠かせません。
画像の前処理には、データ容量が変化しない画像データクレンジングと、データ容量が変化する画像データ削減の2種類があります。
画像データクレンジング:データ削減なしで画像を最適化
RAW画像をそのまま後続工程に使用できるようにするため、画像情報・画像サイズに大きな変化を加えることなく、画像データの品質を向上させることを画像データクレンジングといいます。

画像データクレンジングの主な手法
デベイヤリング:カラーフィルターアレイのセンサー信号に含まれる色情報を再構成
ホワイトバランス:光源や照明条件に合わせて画像の色を補正
ノイズ除去:フィルターやアルゴリズムを使用して画像ノイズを低減
シャープネス:画像の細部やエッジ部の知覚的鮮明度を向上
シェーディング補正/フラットフィールド補正:画像全体の色・明るさのバラつきを補正
画素欠陥補正:隣接する画素から必要な情報を補間することで、センサーの不良部位に起因する画素欠陥を補正
幾何補正:アフィン変換や射影変換により、レンズ歪曲収差(樽型歪曲収差、糸巻き型歪曲収差など)を補正
上記の手法を活用すれば、画像情報を維持したまま、特定の特徴のみを抽出し、画像解析の精度を向上させることができます。
画像データ削減:前処理によりデータを低容量化
画像データクレンジングと異なり、画像データ削減は、データの低容量化を目的としています。後続工程に必要な画像情報のみを抽出することで、CPUやGPUにかかる負荷が減少し、システムリソースが最適化されるため、コスト削減と処理速度の向上につながります。

画像データ削減の主な手法
ROI設定:自動/手動で関心領域を設定し、必要な画像データのみを転送
ビットレート低減:モノクロ/カラー画像のビット深度を下げることで(12bit → 8bitなど)、データ容量を低減
ヒストグラム拡張/ヒストグラム平坦化:輝度値を再分配してコントラストを調整することで、ダイナミックレンジを有効利用(データ容量を維持したまま、画像の情報量が増加)
不要な情報のフィルタリング:画像データの保存・転送前に不要な画像領域・画像情報を削除(背景、ノイズ、重要でない周波数など)
JPEG圧縮:CPU負荷なしのスマートな圧縮アルゴリズムにより、画像の劣化を抑えながら、データ転送速度を向上
上記の手法を活用すれば、データスループットが大幅に増加するだけでなく、データ転送時の不具合も減少し、撮影効率が向上します。特に高速撮影を行う場合や、限られたリソースでエンベデッドビジョンシステムを運用する場合は、画像データ削減が重要になります。
画像の前処理が必要な用途
精度や撮影効率が重視されるさまざまな産業用画像処理において、画像の前処理は欠かせません。用途に応じて適切な前処理を行うことで、ビジョンシステムの速度・安定性・撮影効率が向上します。

電子機器製造におけるプリント基板検査
プリント基板検査では、画像データクレンジングによる正確な欠陥検出(はんだ不良、回路ショートなど)、ノイズ除去とシャープネスによる特徴強調、コントラスト補正による欠陥部品の識別が求められます。また、ROIを設定して特定の画像領域のみを転送・解析すれば、帯域幅を節約しながら、検査速度を向上させることも可能です。

物流現場における物体認識・追跡
カメラによる物体認識・追跡が求められる自動倉庫管理では、ノイズ除去、幾何補正、色空間の変換といった前処理が欠かせません。貨物や容器の特徴を抽出するには、フレームグラバー上でセグメンテーションとブロブ解析を実施するとよいでしょう。その際、撮影部位を絞り込んでデータ容量を削減すれば、分類の速度・精度も向上します。

ロボットによる物体認識とピックアンドプレース
ロボットを使用してピックアンドプレースを行う場合は、デベイヤリングとホワイトバランスを活用し、撮影画像の画質を底上げする必要があります。データ容量を削減するには、ROIを設定して必要な部位のみを読み出すとよいでしょう。撮影角度によって発生する遠近歪みは、幾何補正によって修正します。このようにして、最適化された画像データをロボットに提供すれば、物体認識の精度が飛躍的に向上し、把持位置を正確に決定できるようになります。

バッテリー製造の品質管理
金属箔の上にスラリーを高速で塗布する電極塗工は、外観検査の際に大容量の画像データが発生するため、事前にフレームグラバー上でROI処理を行うとよいでしょう。欠陥部位のデータのみを画像解析に送れば、産業用コンピューターのCPU負荷が減少し、余ったリソースをシステム制御に回すことができます。

Baslerカメラによる画像の前処理
カメラ側で画像を前処理し、画像データを圧縮すれば、ホスト側に転送するデータ容量を削減できます。この方法は、インターフェースの帯域幅やシステムの処理能力が限られている場合に特に有効です。
Baslerカメラには、デベイヤリング、カラーアンチエイリアシング、シャープネス、ノイズ除去などの基本的な画像補正機能が搭載されており、ノイズを抑えながら、画像の輝度・精細度・鮮明度を大幅に向上させることができます。

フレームグラバーによる画像の前処理
カメラの画像データを読み込むフレームグラバーを追加し、FGPA上で画像を前処理すれば、画像データの容量にかかわらず、リアルタイムな撮像を実現できます。
特に高速・高解像度撮影が求められる場合は、フレームグラバーを搭載したビジョンシステムが欠かせません。
Baslerでは、デベイヤリング、ルックアップテーブル、ミラーリングなどの機能を備えた標準的なフレームグラバーのほか、高度な撮影に対応したプログラマブルフレームグラバーもご提供しています。
プログラマブルフレームフレームグラバーによる画像の前処理
プログラマブルフレームグラバーは、速度・接続性・処理能力の面で、標準的なフレームグラバーを上回る性能を備えています。ホスト側へのデータ転送前に高速かつ複雑な画像処理を行う場合は、プログラマブルフレームグラバーを採用するとよいでしょう。
VisualAppletsによるFPGAベースのリアルタイムな画像の前処理
Baslerでは、FPGA専門スタッフがVisualAppletsを活用した高度な前処理機能の開発をサポートしており、RAW画像からJPEG画像への圧縮、ブロブ解析など幅広い作業に特化したオペレーターを実装することで、ビジョンシステムの速度・安定性の向上に貢献しています。
画像データクレンジング
高度なオペレーターを組み合わせることで、画素欠陥、幾何学歪み、露光時の光の散乱、偽色などを効果的に低減します。
画像データ削減
上流側にあるカメラのFPGA上でブロブ解析、RAW画像からJPEG画像への圧縮などの処理を行うことで、後続工程に進む前にデータ容量を削減します。

注目トレンド:AI(人工知能)による前処理の効率化
AIアルゴリズムの普及に伴い、カメラ/エッジ機器上で高度な前処理(適応的ノイズ除去、自動欠陥検出、スマートセグメンテーションなど)が可能になったほか、ディープラーニングベースの適応フィルターにより、製造現場の環境変化にも柔軟に対応できるようになりました。また、画像処理と画像解析のシームレスな連携が可能であることもAIの大きな特長で、画像データクレンジングや画像データの最適化、対象物の特性・特徴抽出により、後続工程の作業効率を大幅に向上させることが可能です。このほか、最近では高い安定性・柔軟性・拡張性を確保しながら、要件の厳しい撮影用途に対応するため、従来型アルゴリズムとAIアルゴリズムの両方を搭載したビジョンシステムも増えています。
関連製品
ビジョンシステムの精度・撮影効率の向上に欠かせない画像の前処理。以下の製品を導入すれば、画質や画像解析の速度を向上させながら、ムダのない撮像フローを構築できます。
よくあるご質問(FAQ)
画像解析の事前準備として、マシンビジョンカメラで撮影したRAW画像のデータを最適化することを画像の前処理といいます。主な処理には、画質補正、画像データクレンジング、画像データ削減などがあります。
画像の前処理には、画質向上、特定の画像情報の強調、システムにかかる処理負荷の軽減などのメリットがあり、画像解析の速度・精度を向上させることで、さまざまな作業をスムーズに自動化できます。
実際の性能要件や撮影環境によっても異なりますが、マシンビジョンカメラ、フレームグラバー、エンベデッドプロセッサー上で画像を前処理することができます。
画像データクレンジングと画像データ削減の主な違いは、以下の通りです。
画像データクレンジング
画像情報・画像サイズに変化を加えることなく、画質を向上します。
画像データ削減
画像のデータ容量を削減し、転送・処理速度を向上します。
画像データクレンジングの主な手法は、以下の通りです。
デベイヤリング(色の再構成)
ホワイトバランス(照明環境の変化に合わせた色補正)
ノイズ除去(干渉信号のフィルタリング)
シャープネス(画像細部の鮮明化)
シェーディング補正/フラットフィールド補正(明るさ補正/色補正)
画素欠陥補正(センサーの画素欠陥の補正)
幾何補正(レンズ歪曲収差の補正)
画像データ削減の主な手法は、以下の通りです。
ROI設定(特定の画像領域の読み出し)
JPEG圧縮(圧縮によるファイルサイズの削減)
ビットレート低減(画像のビット深度の低減)
ヒストグラム拡張/ヒストグラム平坦化(コントラスト補正)
不要な情報のフィルタリング(データ転送前の不要な画像領域の削除)
画像を前処理する主なメリットは、以下の通りです。
画質の向上(画像の鮮明化、ノイズの低減)
ホストコンピューターにかかる負荷の軽減(上流側アルゴリズムによる画像の前処理)
システムコストの削減(帯域幅の節約)
システム全体の速度・信頼性を向上
ハードウェア、ソフトウェア、インターフェース、保守作業・パラメーター調整にかかる労力に加え、実際の用途に合っているか、一貫した処理が可能であるかなども考慮するとよいでしょう。
