ディープラーニング

産業用画像処理に最適なディープラーニング向けビジョンシステム

システム構造&構成機器

正確な欠陥検出、スマートな品質管理、自動判定をはじめ、従来の産業用画像処理の枠組みを超えて、さまざまな場面で重要な役割を果たしているディープラーニング向けビジョンシステム。以下では、ディープラーニング向けビジョンシステムをスムーズに構築・運用する方法について、その構造や構成機器とともに解説します。

  • 最終更新日: 2025/12/02

ディープラーニング向けビジョンシステムの構造

ニューラルネットワークをベースにしているディープラーニング向けビジョンシステムは、処理能力の高いプロセッサー、最適化されたフレームワーク、エンドツーエンドの学習手法を採用しており、柔軟性が高い一方で、多くのリソースが求められます。

目標:画像取得から結果出力までのエンドツーエンドのAIインテグレーション

ディープラーニング向けビジョンシステムを構築する際には、以下の各工程にAI(人工知能)をシームレスに組み込むことが主な目標となります。

  • カメラによるRAW画像の取得

  • リアルタイムな画像処理

  • AIモデルによる自動画像解析

また、産業用画像処理の厳しい要件を満たすには、すべての構成機器をディープラーニング向けに最適化し、 優れた精度・再現性・拡張性を備えたクローズドシステムを実現しなければなりません。

画像取得から結果出力までの画像処理パイプライン

ディープラーニング向けビジョンシステムの性能を確保するうえで、構成機器の相互運用による画像処理パイプラインの構築は非常に重要です。ディープラーニング向けビジョンシステムの一般的な画像処理パイプラインは、以下の通りです。

1. 画像取得:マシンビジョンカメラでRAW画像を取得し、高画質の画像データを生成

2. 画像転送:フレームグラバーを介して画像データをプロセッサーにロスなく転送

3. 画像の前処理:pylonやカメラ内蔵機能を使用し、画像補正(ノイズ除去、デベイヤリングなど)を実施

4. AI推論:ディープラーニングソフトウェアに画像データを読み込み、AIモデルによるCNN(コンボリューショナルニューラルネットワーク)ベースの画像解析を実施

5. 結果出力:解析結果(欠陥情報など)をコントローラーや上層システムに出力

以上を踏まえたうえで、適切なシステム設計とインターフェース選定により、構成機器間のスムーズな通信を確保しながら、製造現場にビジョンシステムを導入すれば、幅広い産業用途において高速・高精度かつ一貫した画像解析を実現できます。

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画像取得から結果出力までの画像処理パイプライン : 1. 画像取得 2. 画像転送 3. 画像の前処理 4. AI推論 5. 結果出力

ディープラーニング向けビジョンシステムを構成するハードウェア&ソフトウェア

ディープラーニング向けビジョンシステムは、特定の作業に特化したハードウェアとソフトウェアで構成されており、それぞれ技術的な最適化を行うことで、システム全体の性能と信頼性を確保しています。

ディープラーニングハードウェア

ディープラーニング向けビジョンシステムは、画像データを処理するプロセッサーの違いによって、以下の3種類に分けられます。プロセッサーを含め、ハードウェアを選定する際は、実際の用途やシステムのコスト・拡張性・処理速度などを考慮するとよいでしょう。

コンピューターハードウェア

コンピューター(PC)

特長:セットアップが簡単、柔軟性が高い、低コスト
用途:プロトタイプ開発、卓上検査
FPGA

FPGA

特長:高速、レイテンシーが少ない、安定性が高い
用途:インラインの品質管理、モノづくり
エンベデッドビジョン関連サービス

エンベデッド

特長:コンパクト、エッジAI対応、省電力
用途:モバイル機器、分散型システム
ace 2モデル一覧

マシンビジョンカメラ

マシンビジョンカメラは、ビジョンシステムの中核となる機器です。カメラの撮影画像は、AIモデルの推論精度を大きく左右するため、優れた画質の確保が欠かせません。Baslerでは、ace、ace 2、dart、racerをはじめ、以下の特長を持つ産業用マシンビジョンカメラを幅広く取り揃えています。

  • 高画素・高画質

  • 各種インターフェース対応(GigE、USB 3.0、CoaXPressなど)

  • カメラ内蔵型画像補正機能(デベイヤリング、シャープネス、ノイズ除去など)

  • ディープラーニングの精度を向上させる一貫した撮像

Framegrabber-based deep learning: fastest inference & highest reliability

フレームグラバー

カメラの撮影画像を取り込んでホスト側に転送するなど、画像データの管理に便利なフレームグラバーは、高速データ転送リアルタイムな処理に欠かせません。特にFPGA搭載フレームグラバーは、低レイテンシーの安定した画像取得・処理が可能です。

ディープラーニングソフトウェア

ハードウェアとAIモデルを連携するソフトウェアには、カメラの接続・設定・制御、AIモデルの学習などさまざまな用途があります。

pylon AIプラットフォームの操作画面

pylon AI画像解析ツール

pylon AI画像解析ツールは、産業用画像処理におけるAIの導入・運用をサポートする専用ツールです。性能予想に便利なパフォーマンスベンチマーク機能を備え、AIモデルを最適化したうえで、対象ハードウェアに素早く簡単に実装し、CNNベースの画像解析を行うことができます。


pylon vTools

pylon画像処理ツール

pylon画像処理ツールは、従来型アルゴリズムをベースにした専用ツールです。プログラミングに関する専門知識がなくても、物体認識、OCR(文字認識)、セグメンテーション、分類をはじめ、幅広い画像処理をスムーズに導入できます。

VisualApplets

VisualApplets

VisualAppletsは、直感的な操作画面が特長のFPGA画像処理開発環境です。ハードウェア上で複雑なディープラーニングや画像の前処理を行うことで、ディープラーニング向けビジョンシステムの精度・柔軟性・拡張性を向上させることができます。

AIモデルによる推論

推論工程では、マシンビジョンカメラで撮影した画像データを読み込み、CNNの畳み込み層を介して形状、エッジ、質感などの特徴を抽出したうえで、用途に応じて分類、セグメンテーション、物体認識などの画像解析を行います。

その際、pylon AI画像解析ツールやpylon画像処理ツールを使用し、推論を自動化・高速化することも可能です。例えば、画像データpylon AI画像解析ツールに転送すれば、不良部品の検出、OCRによる製品テキストの読み取り、指定した物体の位置特定など幅広い作業を効率化できます。

また、推論結果は、下流工程の仕分けや品質管理、工程管理にとっても重要であるため、ディープラーニング向けビジョンシステムにAIモデルをシームレスに実装し、高速・高精度かつ一貫した結果を出力することが求められます。

なお、AIモデルの性能は、ハードウェアに合わせた最適化の有無に加え、学習データの画質によっても大きく変わります。画質が高いほど、AIモデルの推論精度と信頼性は向上するため、画像取得だけでなく、AI学習においても最大限の画質を確保しなくてはなりません。

このほか、pylon AI画像解析ツールとVisualAppletsは、学習済みのAIモデルを実装・カスタマイズする際にも非常に便利です。

システム設計&インターフェース

ディープラーニング向けビジョンシステムの性能の決定要素

産業用画像処理に最適なディープラーニング向けビジョンシステムの構築において、AIモデルとハードウェア間の効率的なデータのやり取りと、製造現場へのスムーズな導入は非常に重要であり、緻密なシステム設計と慎重なインターフェース選定が必要不可欠になります。

ハードウェアとのシームレスな通信
ハードウェアとのシームレスな通信

ハードウェアとソフトウェア間のシームレスな通信

システム構築にかかる労力を抑えながら、安定したデータ転送を確保したいなら、pylon Software Suiteがおすすめです。柔軟なネットワーク構成が可能なGigE Vision、簡単接続のUSB3 Vision、広帯域幅が特長のCoaXPressをはじめ、幅広いインターフェースに対応しているほか、認証ドライバーも付属しているため、カメラとAIモデルを直接接続し、信頼性の高い通信を実現できます。

pylon上で画像処理パイプラインを構築した後は、pylon AI画像解析ツールを使用することで、AIモデルをスムーズに実装し、CNNベースの効率的かつ安定した画像解析を行うことができます。

OPC UAクライアント

産業用通信プロトコル

高度なシステム制御に使用されるOPC UAは、プラットフォームやメーカーに依存しない共通通信プロトコルとして、機器間通信の標準化・効率化が可能であるため、AIの解析結果をPLC(プログラマブルロジックコントローラー)やMES(製造実行システム)に転送する際に最適です。さらに、専用のOPC UAクライアントも組み合わせれば、画像処理パイプラインの出力データをOPC UAサーバーにシームレスに送信できます。

このほか、製品ごとのAIモデルの切り替えをサポートし、製造の柔軟性を向上させるツールとして、pylonビューワーのレシピコードジェネレーターも便利です。レシピコードジェネレーターの詳細については、Basler製品ドキュメントをご覧ください。

柔軟なシステム構成:エッジ処理&クラウド処理への対応

ディープラーニング向けビジョンシステムの要件は、用途によって大きく変わるため、柔軟なシステム構成が欠かせません。

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AI画像解析による製造現場の品質管理・工程管理の一元化

リアルタイム性に優れたエッジ処理

モバイル機器、分散型システムなどリアルタイム性が求められる場合は、エッジ側でAIモデルを直接運用するエンベデッドビジョンシステムがおすすめです。例えば、エッジ機器上でAIモデルを運用できるNVIDIA社製Jetson™は、自律性の向上やレイテンシーの最小化だけでなく、ネットワーク依存度の低減にも最適です。

拡張性に優れたクラウド処理

大容量データの処理、分散学習、複数のシステムの一括管理など拡張性が求められる場合は、 AWS(Amazon Web Services)Microsoft AzureGoogle Cloudなどの大手クラウドサービスを利用することで、複雑なディープラーニングを柔軟に行うことができます。

特に複雑な分散型製造ネットワークにおいて、品質管理・欠陥検出・工程管理を効率化するには、各製造現場にディープラーニング向けビジョンシステムを設置し、 画像取得と画像解析を同じ場所で行わなければなりません。Baslerなら、柔軟かつ標準化されたシステム構築により、 高速・高精度かつ一貫した画像解析を実現できます。

長期にわたって複雑な作業をサポートするため、シンプルかつ信頼性の高いビジョンソリューションをご提案いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

ディープラーニング向けビジョンシステムを構築するには、高品質なマシンビジョンカメラ、高性能なフレームグラバー、最適な画像処理ハードウェア、専門のディープラーニングソフトウェア、最適化されたAIモデルなどが必要です。また、スムーズなシステム構築を実現するには、高性能かつ信頼性に優れたインターフェースも欠かせません。Baslerでは、ビジョンエンジニアの方やAIプロジェクトに携わる方を対象に、高度な産業用画像処理に必要な製品・サービスをご提供することで、プロトタイプ開発から量産までをトータルにサポートしています。
Pauline Lux
Pauline Lux
プロダクトマネージャー

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