導入事例

がん診断の精度向上に貢献する革新的な病理検査自動化システム

顧客
inveox GmbH
所在地
ドイツ・ガルヒンク
‍日付
2019年
病理検査時の不備や検体の取り違えにより、ドイツ国内だけで誤診や不適切な処置が1年間に数百件も発生しています。このような問題に対応するため、ドイツ・ガルヒンクに本社を置くinveox社がBaslerの画像処理機器を活用し、病理検査のデジタル化と自動化を実現する革新的なソリューションを開発しました。
ラボラトリー・オートメーション
がんの誤診のほとんどが人的ミスによるものです。手作業に起因するインシデントの発生確率は1~15%であると推定されており、最悪の場合、誤診や不適切な処置により、患者の健康に大きな悪影響を及ぼすおそれもあります。
‌Dominik Sievert氏
inveox社創始者兼マネージングディレクター

病理診断の課題

統計によると、2人に1人が一生のうちに一度はなるというがん。そんながんの診断では、通常の検査に加えて患者の組織を分析する病理検査も行います。「医療技術が日進月歩の勢いで進化しているにもかかわらず、病理検査の手法は長年変わっていないため、多くの問題が発生しています」と話すのはinveox社の創始者兼マネージングディレクターであるDominik Sievert氏です。なかでも、手作業による検体データの入力は病理検査のボトルネックとして、専門家の間で早急な改善が叫ばれており、「時間とコストがかかり、人的ミスのリスクも高いという点で世界共通の課題になっています」と同氏は強調します。しかも、データ入力後の工程においても、検体の取り違えや紛失、コンタミネーションなどのインシデントが起こる可能性があります。

inveox社創始者兼マネージングディレクターのDominik Sievert氏とMaria Sievert氏
inveox社創始者兼マネージングディレクターのDominik Sievert氏とMaria Sievert氏が開発した革新的な病理検査自動化システム(画像提供:Astrid Eckert/TUM)

このような現状を目の当たりにし、inveox社の創始者であるDominik Sievert氏とMariaSievert氏は、検体の採取、分析から検査後のやり取りに至るまでの手順を改善する方法はないかと考えました。そして模索の末、病理検査に革命をもたらすといっても過言ではない製品を市場に向けて発表したのです。

すべては患者の安全のために

「検体の採取から顕微鏡観察に至るまで、病理検査の全工程をデジタル化・自動化・ネットワーク化し、がん診断の精度と速度を向上させることを目指しました」とDominik Sievert氏は話します。inveox社がこの目標を達成するために開発した病理検査自動化システムは、生検用のインテリジェントな検体容器、検体自動読取装置、患者の担当医と病理医との間で安全かつ円滑なコミュニケーションやデータ転送を行うことができるオンラインプラットフォームの3つから構成されています。

inveox社のインテリジェントな検体容器
1つの容器で複数の処理を行うことが可能なinveox社のインテリジェン トな検体容器 画像提供:Astrid Eckert/TUM

複数の前処理をワンストップで行う検体容器

今回のシステムに使用されている検体容器は、複数の前処理をワンストップで行うことができます。「一般的な検査手順では、工程ごとに患者の組織を手作業で他の容器に移し替えた後、新しいラベルを貼らなければならないため、人的ミスが避けられません」とDominikSievert氏は指摘します。inveox社の検体容器には、組織の固定に使用したホルマリンを除去するフィルターが付いており、検体を移し替えることなく、そのまま後続の処理に回すことができます。また、各容器には固有のIDが付いているため、検体の取り違えやコンタミネーションが起きる心配もありません。

検体の自動読み取り
一度に複数の検体容器を入れられるinveox社の検体自動読取装置(画像提供:Astrid Eckert/TUM)

シームレスな作業を可能にする検体自動読取装置

inveox社の検体自動読取装置からも、同社のイノベーションが感じられます。一度に複数の検体容器を入れられるこの装置は、検体データの取得、ホルマリンの除去、保存・分析用の組織画像の撮影を全自動で行います。しかも、読み取りが完了した後も検体は同じIDの容器に入っているため、そのまま後続の処理や分析に回すことができます。

円滑なコミュニケーションと信頼性の高い診断をサポートするオンラインプラットフォーム

「臨床検査機関と医師のやり取りは、そのほとんどがいまだに紙媒体で行われています」とMaria Sievert氏は話します。inveox社のオンラインプラットフォームは、臨床検査機関の既存の情報システムから直接アクセスできるようになっており、検体画像や病理医のコメントをはじめ、診断に必要なデータがセキュリティ保護されたデータベースに保管されています。患者の担当医と病理医がデジタル化された体系的なプラットフォーム上でコミュニケーションやデータ転送を行えば、診断の精度と速度の向上につながります。しかも、すべてのデータは暗号化された後にオンラインでやり取りされるため、検体の採取から画像分析、診断に至るまでの詳細かつリアルタイムな情報をいつでも安全に確認できます。

柔軟性に優れたシステム構成

検体容器、検体自動読取装置、オンラインプラットフォームはいずれも用途に応じて個別に使用することが可能です。ただ、これら3つをすべて組み合わせることで、患者の安全を確保できるだけでなく、検査効率も50~70%向上します。金額に換算すると、中小規模の臨床検査機関で1年間に約25万ユーロ、大学病院などの大型施設ならそれ以上のコスト削減が望めるのです。
‌Maria Sievert氏
inveox社創始者兼マネージングディレクター

重要な役割を有する画像処理機器

今回のシステムにとって“自動化”は大きな特長であるとともに、システム全体の根幹を成すものでもあります。特に検体の自動読み取りには、画像処理機器の存在が欠かせません。inveox社の検体自動読取装置は、ホルマリンの除去、輸送容器から検体容器への組織の移し替え、レーザーによる検体容器へのラベリングなど、さまざまな作業を全自動で行います。また、内蔵のBasler dartで複数枚の組織画像とラベルのバーコードを撮影するため、透明素材の検体容器を採用したうえで、装置内で検体容器を自動的に整列し、最適な位置まで回転させるようにしました。

Basler dart - エリアスキャンカメラ

システムの根幹を担うBasler dart

実際のシステム構成にもよりますが、inveox社の病理検査自動化システムには、十分な画素数と速度を兼ね備えたカメラモジュールとして、Basler dartが最大5台搭載されています。

AIと機械学習による画像解析

撮影画像の解析に使用されるinveox社製ソフトウェアには、AIと機械学習モデルが搭載されており、組織が後続の処理に適した大きさであるか、不適切な検体がないかなどを撮影画像から瞬時に判断し、関連するアドバイスを自動的に表示します。

さらに、検体の360度画像や大きさ、形状、色、成分に関する情報をデジタル形式でデータベースに保存しておけるため、採取時の状態のままの検体を後日再確認し、診断に使用することも可能です。「これまで、検体を本来の状態で観察することはできませんでした」とDominik Sievert氏は話します。

画像処理機器はすべてBasler社から調達しています。カメラ製品に関して豊富なラインナップを誇り、当社のシステムに最適な機器が調達可能であることはもちろん、最初からフラットに話し合うことができ、当社のアイデアを形にする自信が感じられたことが提携の大きな決め手となりました。創業間もない小さなスタートアップ企業である当社に対し、真摯に接してくださったことも印象に残っています。
‌Maria Sievert氏
inveox社創始者兼マネージングディレクター
カメラ選定のためのデモ機の貸与からセットアップのサポートに至るまで、あらゆる面で専門的な支援を提供するなど、Basler社は協力的かつ信頼できるビジネスパートナーとして、当社の要望に迅速に対応してくださいました。将来的な海外展開を見据えた場合でも、実績のあるBasler社と取引していれば、現地で新しいサプライヤーを探す必要はありません。
‌Dominik Sievert氏
inveox社創始者兼マネージングディレクター

使用製品

‍‍ご紹介したソリューションの導入には、以下‍の製品が最適です。

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